伍子胥 part1

伍子胥(右は玉藻御前)

 

誕生

伍子胥は楚の国の重臣の家系に産まれました。

父親の伍奢は楚の王である平王の子、太子である建の侍従長兼教育係である太傅を務めていました。

次期王様の教育係ってのは重臣です。そのうち王様になりますからね。

 

平王、息子の嫁を寝取る

ある時、同じく太子の副侍従長・少傅である費無忌が、秦の姫を太子のお嫁さんにするべく迎えに行きました。

費無忌が秦に着いてお姫様を見るとびっくり。ものすごい美人です。

 

そこで費無忌は策を弄しました。

彼は平王に、「秦の姫はものすごい美人でした。子供にあげるのはもったいないですよ。太子には他の女をあてがって、姫は王のものとしましょう」と提案します。

 

平王はこれを了承し、息子の嫁を寝取ったのです。

費無忌はこの功績により、平王の側近となりました。

 

しかし、問題があります。

今は平王の側近となり、権勢を振るうことができますが、平王が死ぬと、太子である建が後を継いで楚の王となるでしょう。

そうしたら、元々自分の嫁になるはずだった女を父親に娶らせた費無忌は、殺されるか追放されるに違いありません。

 

ですので、費無忌は元々は少傅として太子に仕えてた身であるにも関わらず、太子の悪口を平王に吹き込みました。

平王は元々太子建の母親とそりが合わなかったこともあり、費無忌の讒言に乗って太子を辺境の警備に左遷しました。

 

さて、左遷しただけでは、平王が死ぬと後を継ぐでしょうし、費無忌はまだ安心できません。

費無忌は「太子は辺境で軍備を整えて、王に叛逆する気ですぞ。嫁となるはずだった秦の公女を王に奪われて、恨みに思わないはずがありません」と讒言しました。

まあ元々その寝取りを唆したのは費無忌なんですけどね。

 

平王はそれもそうだな、と費無忌に乗せられて、司馬の奮揚に太子を殺すように命じました。

しかし司馬の奮揚は、こっそりと太子に向けて使者を出し、このことを太子に伝えたため、捕まる前に逃げることが出来ました。

 

父と兄が処刑される

さて、この一連の流れを見ていて怒ったのは、太子の太傅である伍奢です。

伍奢は「実の子供を疎んじ、佞臣の口先を信じて殺そうとするとは何事ですか」と平王を諫めました。

すると伍奢は投獄されることとなります。

 

すぐに伍奢を処刑しても良かったのですが、伍奢には伍尚と伍子胥という二人の男子がいました。そいつらも一緒に殺しておかないと、禍根を残します。

中国は昔から処刑する時は、だいたい一族全員皆殺しです。これを族誅と言います。

 

平王は、伍尚と伍子胥に、「父を助けたければ参内せよ」と使者を立てます。

伍尚と伍子胥はこの話を聞いて話合います。

伍子胥は「これは罠です。行けば必ず殺されるでしょう。私たちが殺されれば、誰が一族の仇を取るのでしょう」と、参内に反対します。

 

しかし伍尚は、「罠であることは分かっている。しかし、ここで私たちが逃げて、その上仇討ちに失敗すれば、父を見捨てた上に二重に恥を晒すことになるであろう。」

「もし殺されるのだとしても、私は父を見捨てることはできない。伍子胥、お前は逃げろ。逃げて私たちの仇を取ってくれ」と言いました。

 

伍子胥はこれを聞いて、使者を脅して逃げ、伍尚は使者について都に入り、父と共に処刑されました。

 

伍子胥の逃亡生活

伍子胥が逃亡中、親友である申包胥に出会います。

伍子胥は平王の無道な行いに怒り、「私は必ず一族の仇を取り、楚を滅ぼす」と宣言します。

忠義に篤い申包胥は伍子胥の言葉を聞き、「ならば私は、臣として楚の国を守ろう」と断言しました。

このあと申包胥は呉の軍勢を率いた伍子胥から、楚の国を救う事となります。

 

さて、楚の追手から逃れる伍子胥の逃亡は大変でした。

なによりも伍子胥は身長が2メートルもあり目立つため、どこへ行ってもすぐバレます。昔だから今よりも平均身長が低いでしょうし、余計目立つでしょうね。

 

伍子胥は領土拡大の野心があるとにらんだ、隣の国である呉に逃げようとします。

しかし、長江を渡れずにどうしようものかと悩んでいました。そこに平王の追手が来ます。

 

すると、近くに居た漁師に匿ってもらい、難を逃れます。

そして、その漁師の船に乗せてもらい、長江を渡ることが出来ました。

 

伍子胥はこれに感謝し、百金もする剣を礼として漁師に渡そうとしましたが、漁師は受け取りませんでした。

伍子胥がなぜ百金もする剣を受け取らないのか、と尋ねると、

「あんたを捕らえると、執珪の爵位に5万石がもらえるんだ。金が欲しいなら、あんたをとっくの昔に捕まえてるよ」と言い残し、漁師はその場を去りました。

伍子胥はその後病気になって乞食をしたりしながら、やっとのことで呉の宮廷に入ることが出来ました。

 

呉で機会を待つ

伍子胥は憎き平王が治める楚を攻めることの利を、呉の宮中で説きました。呉王である僚もその気になりました。

しかし公子の光が、伍子胥の提案に反対します。

 

「この者は呉の国のためを思って楚への侵攻を提案しているわけではなく、自分の恨みを晴らしたいだけですぞ」

まったくもってその通りなので、伍子胥はぐうの音も出ません。

 

公子光の反対でこの場は流れました。しかし、伍子胥はあることに気づきました。

呉は楚と戦えるぐらいの十分な国力があります、それを才気ある公子光が反対するからには、なにか野心を秘めているのではないかと。

 

公子光の野心に気づいた伍子胥は、専諸という暗殺者を公子光に推挙し、自身は下野して畑を耕して、いつか来たる日を待ちました。

 

公子光と専諸は呉王僚の暗殺計画を話し合います。

専諸は、「王を弑することはできますが、私は命を落とすことになるでしょう。私の老いた母と息子はどうなるのでしょうか」と問いました。

すると公子光は、「そなたに万が一のことがあれば、そなたの一族を私が責任を持って面倒を見る」と約束します。

 

公子光と専諸は呉王を弑するチャンスを待ちました。

そして、楚の平王が亡くなった時の混乱に乗じて呉が軍隊を送り込んだ時、国内に軍が居なくなったのを見計らって、公子光が呉王僚を宴に呼び出しました。

 

呉王の僚も怪しいと分かっていて、精鋭の護衛をつけたりしました。

しかし専諸が魚の料理を王の元に持って近づき、魚の中に隠しておいた短刀で王の暗殺に成功。

次の瞬間、専諸は呉王の護衛に、斬り殺されました。

 

呉王を弑してクーデターが成功したので、公子光は呉王闔閭として即位しました。

呉王闔閭は、暗殺者専諸の子を卿として迎え入れ、専諸を推挙した伍子胥も闔閭の側近となりました。

この時点で父と兄が処刑されてから、7年もの時が流れていました。

 

孫子を推挙

伍子胥はある時、孫武という若者の存在を知り、呉の首都近くの山中に屋敷をつくらせて、孫武に使わせます。

孫武はそこで蟄居し、『孫子の兵法』という兵法書を書き上げます。

これがあの、現代でもビジネス書として用いられてる有名なやつですね。

しかし現代に伝わっている形での孫子の兵法書を編纂したのは、三国志の曹操です。あの人君主なのに超有能ですよね、人妻好きだけど。

 

孫子の兵法を読んだ伍子胥は絶賛します。そして君主である闔閭に孫子の兵法を献上して、孫武の登用を勧めます。

あの孫氏が将軍になったら百人力です。仇討ちのために楚も攻めなくちゃいけないですし、有能な将軍は喉から手が出るほど欲しいです。

 

しかし、闔閭は孫武の登用に乗り気ではありませんでした。伍子胥は闔閭に通算7回も登用を勧めました。

すると闔閭は、ついに音を上げて孫武を宮中に呼び出し、こう言いました。

「先生の孫子の兵法を読ませては頂いたが、実際に使えるものなのだろうか。ちょっと宮中の女子を指揮してみてください。」

そして呉の宮中の女子180人が集められました。

 

孫武の練兵

孫武は180人の中から、闔閭のお気に入りの寵姫を2人隊長に任命し、太鼓の音を鳴らして右や左へ向くように命じました。

しかし太鼓の合図を鳴らしても、女子たちはクスクス笑うばかりで命令を聞きません。

 

孫武は、「命令が不明確で兵が行動できないのは、将軍である私の責任です」と、命令をもう一度丁寧に説明しました。

そしてまた太鼓を鳴らすのですが、またもや美女たちはクスクスと笑って命令を聞きません。

 

孫武は、「命令が明確であるのに従わないのは、指揮官である寵姫の責任である」と、隊長である呉王闔閭の二人の寵姫を斬ろうと剣を抜きました。

呉王闔閭はこれにびっくりして、孫武を止めます。

「待ってくれ。その二人は私のお気に入りなのだ。斬るのはやめてくれ。」

しかし孫武は、「私は将軍として兵の指揮を任されました。いかに君主といえど、陣の中では従えないこともあります」と、二人の隊長である寵姫を斬り捨てました。

 

孫武は恐怖に震えながら残った美女の中から、新たに隊長を任命しました。

そして、もう一度太鼓を鳴らすと、美女たちはさっきまでとは打って変わって、精兵のように命令を聞きました。

寵姫ですら斬られたんだから、自分が命令に背くと簡単に殺されると思ったんでしょうね。

 

これを見て満足した孫武は、闔閭にどや顔で言いました。

「さあ、調練は終わりましたよ。これでこの兵たちは水の中でも火の中でも進むでしょう。」

 

孫武はこのことで闔閭に軍事の才能を認められ、呉の将軍として仕えるようになります。

楚の地理に詳しく復讐に燃える伍子胥と、圧倒的な軍事的才能を持つ孫武を手にした呉。この二人の名将を携えて、楚を攻め落とす準備を進めるのでした。

 

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