イヴァン雷帝 part3

オプリーチニナ制に対する抗議

非常大権を手にし、周りの者の拷問や処刑を行い、オプリーチニキによる圧政を敷くようになった、かつての英雄イヴァン雷帝。

貴族に対する拷問だけではなく、オプリーチニキによる圧政は、ロシアの民衆を苦しめました。

オプリーチニキ

 

このオプリーチニナ制に反対したのが、ロシア正教会トップのモスクワ府主教アファナシィです。

しかしオプリーチニナ制に反対はしていましたが、恐ろしいイヴァンに面と向かって口答えなどできません。

そこで彼は病気という口実を使って、府主教から引退しました。

無言の抗議というやつですね。

 

次にモスクワ府主教となったのはゲルマンです。

しかし府主教ゲルマンもオプリーチニナ制について雷帝に文句を言い、就任2日で更迭されて、モスクワから追放されました。

 

聖フィリップ

ゲルマンの次にモスクワ府主教となったのが、今現在、聖人として列聖されている、聖フィリップでした。

フィリップは、「府主教に就任するには、オプリーチニナ制を廃止してください」という条件を雷帝に提示しました。

 

すると雷帝は、「聖職者ごときが神にも等しいツァーリに口を出すな」と激怒。結局、雷帝のやることに文句を言わないという条件で、モスクワ府主教に就任しました。

しかし就任から2年、オプリーチニキによって無辜の民が粛清されていくのに耐えきれなくなった聖フィリップは、ついにツァーリに反旗を翻します。

 

彼は大聖堂に祝福を受けに来た、敬虔な正教徒であるイヴァン雷帝に祝福を授けるのを拒みました。

そして、今行われている虐殺を止めるように、と礼拝しに来ていた者たちの目の前で、ツァーリを公然と侮辱したのです。

 

翌日、聖フィリップの部下の修道士達が拷問にかけられました。フィリップの無実の罪をでっちあげるためです。

しかし修道士達は偽証を拒否、殺されてしまいます。

 

雷帝は結局、聖フィリップが魔術を使った、恥ずべき所業をしたとでっちあげ、聖体礼儀の最中に大聖堂に乗り込み、フィリップを逮捕しました。

そして聖フィリップを終身刑として修道院に監禁しましたが、民衆はフィリップを生ける聖人として崇め、フィリップの居る場所を聖地巡礼しました。

 

雷帝はこれが面白くありません。彼はオプリーチニキの隊長、マリュータ・スクラートフを派遣して聖フィリップを絞め殺しました。

 

わざわざ聖体礼儀の最中に逮捕して、恥をかかせようと思ったのに、聖フィリップが民衆から聖人と崇められてしまい、雷帝は憮然とします。

そこで彼は自分が病気の時に、息子を後継者に選ばなかった大貴族たちのことを思い出しました。

 

彼はオプリーチニキに、不埒な貴族たちを拷問させ、殺し。少しうっ憤を晴らしました。八つ当たりですね。

 

エリザベス女王に求婚

この時、ロシアはリヴォニア戦争で、色んな国の介入を受け、周りの国は敵だらけ。

不遜な貴族たちを殺しても殺しても、怪しそうなやつが次から次へと出てきます。

聖職者は不満そうな目を向け、民衆は圧政に怨嗟の声を上げます。

 

「くそっ・・・どいつもこいつも・・・ツァーリである私を馬鹿にしやがって。誰か、味方は居ないのか・・・。」

「そうだ!味方が居なければつくればいい。イングランドのエリザベス女王と結婚しよう!」

エリザベス女王

 

彼は2番目の妻、マリヤと結婚しているにも関わらず、イングランドのエリザベス女王に求婚しました。

というのも、ロシアでもし何かあった時に、イングランドに亡命できるようにです。あと味方が欲しかったのでしょう。

 

しかし、「処女王」と呼ばれ、スペイン王フェリペ2世や、フランス王弟アンジュー公、オーストリア大公などのそうそうたる面々から求婚されていたモテモテのエリザベス女王。

そんな彼女が、何が悲しくて、雷帝なんかと結婚しなければならないのでしょうか。

 

というわけでエリザベス女王、この雷帝の求婚をスルー。

すると雷帝は怒り狂い、「もうイングランドと貿易なんかしねえ!」と貿易を全てストップしました。

そうしたら戦争中なのに軍需物資が不足し、あわてて貿易を再開しました。

 

ノヴゴロド虐殺

この頃、イヴァン雷帝の2番目の妻マリヤが死にました。

貴族たちは、「皇后に飽きて疎ましく思った雷帝に毒殺されたに違いない」と噂しましたが、雷帝はこういった噂を流したものを、全員拷問にかけました。

 

周りが敵だらけになったこの頃、彼はまた自分の子供が後継者では無いとして、大貴族にないがしろにされたことを思い出しました。

「あの不実な大貴族どもが私の代わりに擁立しようとしていたのは誰だ?ウラジーミル・アンドレエヴィチだ!」

 

そこで彼は従兄弟のウラジーミル・アンドレエヴィチとその家族を皆殺しにし、彼の支持基盤があったノヴゴロドという都市に目をつけました。

「ノヴゴロドは危険だ!皆殺しにしなければ!」

 

イヴァン雷帝は親衛隊のオプリーチニキたちを連れて、ノヴゴロドに向かいました。

その道中に立ち寄った村は、機密保持のため、皆殺しにされました。

オプリーチニキ

 

先回りしていた者らによってノヴゴロドの街は封鎖されており、逃げることも出来ず、市民たちは不安を感じていました。

しかし雷帝はノブゴロドに着くと、何食わぬ顔で大聖堂で聖体礼儀を受けました。

その後、ノヴゴロド大主教ピーメンとの食事会が開かれました。これならなんとかなるかも、と誰もが思いました。

 

しかし食事会が始まるなり、イヴァンが「やれ!」と叫びました。

すると待機していたオプリーチニキが現れ、大主教ピーメンの身柄を確保し、同時に市内での略奪と虐殺が始まりました。

 

市内では無実の住人が、オプリーチニキに片っ端から捕まえられ、拷問されて無実の罪を自白させられ、すぐにその場で処刑されました。

彼らはノヴゴロドに1か月ほど滞在し、街の住人を虐殺し続けました。この時に出た犠牲者は、数千人とも数万人とも言われます。

 

そして300人を生け捕りにした後、次の反乱分子の街へと出かけました。

まだやるのか・・・。

 

雷帝を追い払う佯狂者ニコライ

次に雷帝の虐殺部隊が着いた街のプスコフでは、すでにノヴゴロドでの虐殺の情報が伝わっていました。

プスコフの市民は、自身の運命を佯狂者ニコライに託します。

 

佯狂者とは、全ての財産を捨て、世俗を離れ、施しだけで生き、「聖なる愚者」と呼ばれる修行僧みたいな人達ですね。俗世間とは離れているので、ある程度の無礼が許された風土があったらしいです。

佯狂者

 

ここで佯狂者ニコライは、自身に訪問しに来た雷帝に向けて、生肉を乗せた皿を差し出しました。

すると雷帝は、「私は敬虔な正教徒ゆえ、斎には肉を食さない」と激高しました。

 

これに佯狂者ニコライは、こう答えます。

「何を言う、お前は人の血肉を啜っているではないか。この街の無辜の民に毛一本でも触れて見ろ、お前は神の雷に撃ち殺されることになるだろう!」

タイミングの良い事に、ちょうどその時、稲光がピカッと走りました。

この予言に恐れた雷帝は、数人を処刑するにとどめ、モスクワへと逃げ帰るのでした。

 

ノヴゴロドで虐殺をした雷帝が、なぜ佯狂者一人にビビってと不思議に思われる人もいるかもしれません。

これは人を拷問して殺しまくってるので矛盾するようですが、イヴァン雷帝は敬虔なキリスト教信者だからです。

 

人間の命は蟻の命ぐらいにしか思ってませんが、神の懲罰は恐れるのです。

雷帝の頭の中では、神のごときツァーリに並びうる者は、神しか居ませんからね。

だから佯狂者ニコライのおかげで、プスコフは虐殺を免れたのです。

 

 

こうして雷帝はノヴゴロドで連れた捕虜を手に、モスクワへと帰還したのでした。

 

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